弁護士の取扱業務について
■はじめに
弁護士として業務をしているとよく、「専門分野はどの分野ですか?」というご質問を受けることがございます。
これは、おそらく医師であれば、内科、外科といった診療科目があり、概ねそれに沿った診療をされていることから、弁護士も同様であろう、というご理解からくる質問であろうと思われます。
もちろん、一定の得意分野を持ち、その分野に特化した業務を行う法律事務所もないわけではございません。しかしながら、私どものような小規模の法律事務所の場合、その多くは、そのような専門分野を持たず、ほぼあらゆる法律の分野を取り扱っているのではないかと推察されます。
このことについては、かつて最高裁判所判事であった松田二郎博士が、「八宗兼学」[1]という仏教用語を用いて、「裁判官は民事事件・刑事事件・家庭裁判所の事件、その他何でも取扱うことになります」[2] と述べておられますが、弁護士についても同様で、基本的には弁護士も「八宗兼学」である必要があります。これは、松田博士も述べられるとおり、具体的な事件や案件が法律的に見ても、民法の事件であるとか、刑法の事件であるとか分かれているわけではなく、解決のためには色々な分野の法律に精通する必要があるためです。
例えば、離婚についてのご相談でいらっしゃった方のお話しを注意深くうかがうと、実は借金を整理することで問題が解決できる場合があったりします。
ですから、「専門分野はどの分野ですか?」、「どの分野がお得意ですか?」というご質問に関しては、「専門や得意分野というものはございませんが、できる限り、ご相談にいらっしゃった方の問題を解決するために必要な法律の研鑽に日々努めております。」というお答えになろうかと存じます。
■「取扱分野」を記載する意味
そうすると、皆様としては、法律事務所のホームページに「取扱業務」を記載する意味はないのではないかと思われるかも知れません。しかし,皆様が何らかの問題を抱え、「これは弁護士に相談すべきことなのだろうか」という疑問を抱かれた際に、「取扱業務」の記載がそのような疑問に対する答えを得るための一助になればと存じます。
[1] 南都六宗と言われる三論宗、成実宗、法相宗、倶舎宗、華厳宗、律宗に天台宗と真言宗を加えた8つの宗派の仏教を併せて学ぶことをいいます。 [2] 松田二郎『私の少数意見』商事法務1971年410頁